とても綺麗な満月の夜。

こんな夜はちょっと館を抜け出したくなる。



―月夜―



今日も例に漏れず行動に移す。

薄い上着を羽織り、そっと窓を開ける。

そして、昼間部屋に隠しておいた靴を履く。

懐には護身用の小刀を抱えて。


夜のひんやりとした空気が部屋に満ちる。

満月の匂いが部屋全体に広がり、私の胸は穏やかになった。


「…よいしょ」


窓枠に手をかけ、腰掛ける様な体勢になる。

少々はしたないと思いつつも、そのまま外に飛び下りた。


脱出成功。


しかしまだ油断はできない。

警護兵に見付かると厄介である。

気配を消し、周りに用心しながら夜を歩く。

そしてゆっくりと目的の場所を目指す。


空を見上げれば明るすぎるくらいの満月。

その眩い光に消されてしまった星々。

いつもなら満天の星空が見れるのにな、とは思った。

の故郷には星が綺麗に見えるところが少ない。

それ故ここの星空が大好きだった。



「見えてきた…」


目的の場所が見えてきた。

馬で来ればちょっとの道のりでも、徒歩だから長い気がした。

目の前に立派だが簡素な館が広がる。

もう幾度となく叩いている扉を叩く。


「…伯約?」


中に居る人物に声をかける。

窓から灯りが漏れているから帰って来ているはず。


「…?」


扉が開くと同時に声をかけられた。

私の想い人、姜維が顔を覗かせる。

私はその胸に飛び込んだ。


、どうしたんですか?」


姜維は私を優しく抱き締めながら尋ねた。

私は深く考えずに答える。


「月がね…綺麗だったの」
?」


姜維はポカンとしている。

確かに月が綺麗だから逢いに来たというのは理解し難い。

でも逢いたいのに理由はいらないと思う。


「…また抜け出して来たんですか?」
「…」
「後で趙雲殿に怒られるのは私なんですよ?…なんて言ってもしょうがないですね。私もに逢いたかったんですし」


私は思わず姜維の顔を見る。

いつもの姜維ならこんな事は言わない。

聞き慣れないことを言う姜維は大抵疲れているとき。

は丞相府が慌しいことを思い出した。


「趙雲殿は後でうまく誤魔化しときますから。とりあえず入ってください。ここでは冷えるでしょう」
「ありがと」


中に入り、いつもの私の特等席―姜維の寝台に座る。

近くにテーブルと椅子を持ってきて、反対側に姜維が座る。


は本当にそこが好きですね」
「うん。伯約の匂いがする」
「まったく、何言ってるんですか」


姜維はクスクスと笑いながら茶器を用意し、温かいお茶を煎れてくれた。

私は姜維の煎れてくれたお茶が大好きだった。

温かくてほんのり甘みがある。姜維の性格が表れているみたいだから。


「またそんな薄着で出てきたんですね」
「だって、他になかったし…」
「風邪でもひいたらどうするんです?」
「…伯約、なんか子龍みたい」


姜維はたまに煩い。

それが姜維の優しさなんだろうけど、くどくど長いときもある。

そんな時は軽く流す。


「な!?私は趙雲殿とは違いますっ!!」
「だってお説教が長いんだもん」
「お説教じゃなくて心配してるんですよ。長くなっちゃいましたけど…」
「まぁいいや。伯約、またさっき本読んでたでしょ?」


心配も長すぎるとお説教になるんです、なんて怖くて言えない。

でもやっぱり趙雲と一緒にされるのは嫌なんだ。

それから、寝台に置かれていた書物に目をやる。

また兵法の書だろう。

姜維も好きだなぁ…


「はい。丞相のおすすめなんです」
「私が来なかったらまた徹夜するつもりだったでしょ」
「や…そんなつもりは…」
「あったでしょ」


間に挟まっているしおりの位置を見れば一目瞭然。

まだ半分も読んでいない。

姜維の性格だから読みきらなければ気が済まないのに、途中でやめる筈がない。


「そんなこと言ったって無駄なのはわかってるでしょ」
「あはは…やっぱりにはかないませんね」
「今日は徹夜しないでね。いつもより疲れてるみたいだから」


今日の姜維は朝の鍛練にも出てないし、諸葛亮の使いっぱしりで忙しかったみたいだし。

さっきも普段絶対言わないことを言ってたし。

それに、一緒にいても疲れがみてとれる。

無理だけはしないでほしい。


「わかりましたよ。徹夜はしません」
「約束だよ?」


私は静かに小指を差し出す。
これは私の故郷に伝わる約束の印。
ゆびきりという。

姜維とは何か約束をするたびにゆびきりをする。


「はい。約束ですね」
「今日は…泊まっていこうかなぁ」
「何言ってるんですか。また趙雲殿に怒られますよ?」
「だって、伯約の寝台の上にいると眠くなるんだもん」


私は眠気に襲われていた。

目を擦りながら姜維に言う。

が、姜維はまともにとりあってくれない。


「それはが遅くまで起きてるからですよ。送って行きますから、帰りましょう」
「え〜子龍に怒られてもいいから泊まっていく!!」
「だめです。趙雲殿の御機嫌を損ねれば暫く逢えないことは目に見えているでしょう」
「う…だ、大丈夫だよ!!また抜け出してくるもん!!」


そう、以前の姜維宅無断外泊により2週間近く逢う事を禁じられたことがある。

その日は遊びに来たついでに泊まっていったのだが、2週間だ。

夜館を抜け出し、更に若い男の…恋人の家に泊まるなど…

どんな処罰を受けるか想像もつかない。

それ故姜維は止めるのだ。


「今日抜け出して来たのですから、趙雲殿は抜け出させてくれないのでは?」
「あ…」


今日は抜け出して来た。

だから趙雲は抜け出させないように対策をとるだろう。

それに気付かないらしいな、なんて姜維は思っている。


「…!!じゃあさ、伯約が私の部屋に泊まりに来ればいいんだよ!」
「へ?」
「それなら怒られないって」
「それは…」


正直の部屋には行きたい。

が、の部屋=趙雲の家ということになる。

姜維にとっては恐ろしいことだった。


「子龍もまさか私の部屋に姜維がいるとは思わないよ」
「それはそうですけど…」
「じゃあいいでしょ?行こう!!」
「えっ!!ちょ…っ!!?」


姜維はに手を引かれる形で部屋を出た。

否、半ば無理矢理連れ出された。

そのまま館を出、の家…趙雲の家へ向かった。

姜維はそんなことは望んでいなかったが、愛しいの為なら、と諦め始めていた。


「ねぇ伯約。月が綺麗でしょう」
「そうですね。こんなに綺麗な月を見るのは久しぶりです」
「これを伯約に教えてあげたかったんだ」


満月には不思議な力がある。

そんなことを丞相が言っていたな、と姜維は思った。

はその力に引き付けられたのだろう。

恋人達を近付ける不思議な力に…


―fin―


―あとがき―
はい、意味不です。
学校帰りの電車の中で思いついたものなんですが、突発的過ぎて理解不能です。
えっと、今更ながらさんについて補足。
過去にいろいろあって(ご想像にお任せします)、趙雲の家に居候しています。
過保護な趙雲の目を盗んで姜維に逢いに行ったってことです。
補足しなくて済むくらいの文章力が欲しいです。
さん、ここまで読んでくださりありがとうございました。

(2005.04.03 up)