「司馬懿様ー」
「…」
「司馬懿様?」
「っ煩いわ、馬鹿めが!!」
「あ…ごめんなさい…」



―華見―



よく晴れた昼下がり。魏の軍師―司馬懿は書庫で調べものをしていた。

そこへ三国一のお転婆娘の異名を持つがやってきた。

だが軍師司馬懿、魏の武将なら瞳を輝かせて返事をするだろうが、相手にすると己の執務が滞るのを見越してあえてを無視した。

はムッとした表情を浮かべ、司馬懿の名を呼び続けた。

初めのうちは司馬懿も己の為と自分にいい聞かせ、我慢していた。

が、いい加減司馬懿と言えど限界がある。

無視し続けたところでこの状況の打開法は思い付かない。

仕方なく返事をしてやろうと思ったのに口から出たのは意に反した言葉。

もっと優しく言ってやるつもりであったのに。



「私は調べものをしているのだ。用件はなんだ?くだらん事だったら承知せんぞ」
「…桜の花が綺麗なんだよ。司馬懿様が暇だったら一緒にお花見に行こうかなって思ったんだけど…返事してくれないからさ」
「フン、そんな事か。桜など見てどうする。桃の花見ならしたであろう。そもそも私が暇な時などあったか?
第一見ればわかるだろう、この書簡の山。貴様に邪魔されては終らんだろうが」
「そう…だよね。ごめんなさい、お仕事の邪魔しちゃって…」



やはり口から出るのはきつい言葉。何故もっと素直になれないのか。

それは彼の自尊心の高さ故だろう。

一国の軍師であり、自分の力量を自負している司馬懿だからこそ、無意識に越えられぬ壁を作っていたのだ。



は、ははっと乾いた笑みを漏らして言った。

自分にとって想い入れの強い桜を司馬懿と愛でたいと思った自分を呪った。

司馬懿にそんな余裕が無いことくらいわかっていた。

でも、もしかしたら一緒に来てくれるかもと少しの期待はあった。

が、やはり返ってきた答えは冷たいものだった。


「じゃあ…お仕事頑張ってくださいね。それでは…」
「待て。何処へ行く?」
「独りで行って来ます。司馬懿様も忙しいみたいだし…」
「誰が行かぬと言った?」
「へ?」


はこれ以上ここにいてもしょうがないと思ったのが扉に手を掛けた。

司馬懿はそれを引き止め、遠回しに行くと言ったのだ。

先程の会話からはどう考えても結び付かない。


がポカンとしている間に筆を置き、書簡を片付けた。


「どうした、花見に行くのだろう?早く準備せぬか」
「え…?」
「まったく…貴様が花見に行きたいと言ったのだ。この忙しい時に私がわざわざ一緒に行ってやるのだから早く準備してこい、馬鹿めが!!」
「あ…はいっ!!」


は笑顔で走り出した。

司馬懿の執務室の扉を閉めるのを忘れるくらい嬉しかったのだろう。

が、そんなとは対照的に残された司馬懿は自己嫌悪に陥っていた。




何故自分は上から見下した言い方しかできないのか。

本当はと花見に行きたいのに、素直になれない自分。

もしが他の武将を誘ったことを考えると嫌気がさすくらいの事を好いているのに。



そんな事を考えているうちには戻ってきた。


「じゃあ司馬懿様、行きましょうか」
「うむ。ところで何処まで行くのだ?」
「すぐそこ。歩いて行ける距離だから」
「そうか」


それから司馬懿はおとなしくに付いて行った。

城の裏の少し急な斜面を登ると、少し開けた丘に出た。

そこには満開の桜の木が幾本もあった。


「ほう…これはまた見事だな」
「でしょ?この前の戦の後に見付けてさ。そろそろ咲く頃だと思ったんだ」
「だが何故桜なのだ?先日殿の計らいで桃の花見の宴があったというのに」
「…こっちの人は桃を愛でても桜は見ないんだよね。私のいた世界では桜の花見をするんだよ。
桃は…あんまり見ないけど、春は桜の季節なんだ。だから…この世界にも花見があったのは嬉しいけど、やっぱり桜が見たくてさ」


は遠くを見るような瞳で語った。

やはり文化と時代の違いの壁は厚いようだ。

それを察してか、司馬懿はを後ろのから抱き締めた。

離れないように、けれど包むように優しく。

はその手に触れた。


「やっぱり司馬懿様の手は冷たい」
「そうか?そなたの手が温かすぎるだけではないのか」
「私の手は冷たい方なの。そんな私より冷たいんだからやばいんじゃないの?」


そんなことを言いつつも、は知っていた。

【手が冷たい人は心が温かい】


と言うことを…


―了―



―後書―
初司馬懿夢です。
いや、書いたことはあってもupしたのはこれが初です。
司馬懿は【自尊心が高くて素直になれない】か【わかっていて敢えて嫌味な態度をとる】のどっちかだと思うんですよ。
話によって使い分けますけど、今回は前者で。
素直じゃない司馬懿、可愛いじゃないですか。
てかね、司馬懿は絶対手が冷たいと思う。
で、低血圧。
それが稍的顔色の悪い根拠ですから。
それからこの話、最初は【Cherry Blossom】ってタイトルだったんですけど、無双夢だから英語を使うのはやめました。
稍は基本的にタイトルを英語でつけるんですけど、無双夢で英語は違うんじゃないかと思いまして、日本語でつけることにしました。
だから小説の中でも英語っていうか、外来語は使わないようにしてるんです。
まぁ、今回は異世界トリップものっぽくしたから有りかとも思うんですけどね。

・・・あとがき長っ!
それでは失礼します。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

(2005.04.18 up)